交通事故の損害賠償請求
通常、被害者が加害者に直接請求しますが、交通事故事件の特殊性として、加害者が示談代行付の任意保険契約を締結していたときは、保険会社が加害者の代理人として、被害者と損害賠償の示談交渉することを認められていますので、被害者は、保険会社の担当者と話し合いをすることになります。
ただし、加害者が契約していた保険が示談代行付の保険ではなかったり、任意保険に加入していなかった場合には、加害者と直接交渉することになります。
損害の費目には様々なものがありますが、加害者(又は保険会社)との交渉の中で問題となるのは、休業損害、後遺障害・死亡逸失利益、慰謝料などです。
休業損害については、給与所得者はあまり問題になることはなく、自営業や事業所得者・会社代表者、専業主婦の方の損害をどう考えるかが問題になります。
後遺障害・死亡逸失利益については、ある程度算定するための基準はありますが、算定基準の根拠を何におくかによって、賠償金にかなりの幅がでてきます。被害者が上記自営業者等であった場合のほか、幼児や学生などの場合の逸失利益の考え方が問題となります。
慰謝料はある程度定額化されているとはいっても、自賠責保険基準と弁護士会基準という2つの基準があり、両基準に定められた額には大きな差があります。
交通事故に遭われた方またはそのご家族は、心身ともに疲弊しており、経済的にも早期解決を図りたい気持ちが多いと思いますが、保険会社の担当者と示談しようとする場合、本来受け取ることができる賠償金額よりも、低額(数百万円、数千万円の開きがでる場合もあります)の提示がなされることが多いのが現状です。
交通事故の示談をされる前に、保険会社の提示額が一般的なものかどうか、一度、専門家をご相談されることをお勧めいたします。
交通事故の被害者
①負傷者の救護
負傷者がいれば、すみやかに救護しなければなりません。 警察より、保険会社より119番です。
②加害者の確認
加害者の運転免許証、車検証などを見せてもらいメモをとります。現住所や職場の連絡先、携帯電話及び自宅の電話番号なども聞いておきます。 目撃者がいた場合には、必ず連絡先を聞いておきましょう。加害者と事故態様に争いが生じたとき、目撃証言が無いと、水掛け論となって悔しい思いをします(加害者は事故直後に自分の非を認めていても、後日、翻すことが多々あります)。
可能であれば、加害者が自分の非を認めている間に携帯電話の録音機能を使って、事故原因と自分の非を説明してもらって保存しておくほか、自分及び加害者の車両の状況、タイヤ痕等現場の状況を撮影しておきましょう。
③警察へ連絡
警察へ連絡しておかないと、被害者の立場からみますと、不利益になることが多いです。加害者から、すぐに金銭の支払いをする代わりに警察へ届け出ないよう頼まれることもありますが、基本的には応じないのが賢明です。
④医師の診察を受ける
自分では軽傷だと思っても、必ず医師の診察を受けるようにしましょう。
事故後、おおよそ2週間以上経過してから医師の診察を受けたとしても、事故との因果関係が認められない可能性が出てきてしまいます。
請求できる損害の範囲
交通事故によって生ずる損害には、人的損害と物的損害があり、更に人的損害には、「傷害によるもの」、「後遺障害によるもの」、「死亡によるもの」とに分けられます。
これらの損害に対する賠償を決める場合には、事故によって被害者の被ったすべての損害が交通事故による損害として賠償請求が認められているわけでなく、事故と相当因果関係にある、通常生ずる損害のみに限って請求できることになります。
損害賠償の対象として認められるかどうかは、それぞれの事故の具体的な事情によって異なることになりますが、一般的には以下のように判断されることが多いようです。
①傷害を負った場合
ア 治療費
必要かつ相当な実費の全額が認められます。診察料、検査料、入院料、投薬料等。必要性、相当性が無い場合は過剰診療として認められない場合があります。症状固定後の治療費は否定される場合が多いようです。
イ 鍼灸、マッサージ等の施療費
症状により、有効かつ相当な場合。医師の指示があれば、認められる傾向にあります。
ウ 入院時の特別室使用料
治療上特別室(個室)が必要と医師が認めた場合、又は特別の事情(空室が無かった等)があれば、認められます。
エ 入院付添費用
症状の程度、医師の指示、被害者の年齢等からみて必要かつ相当と認められる場合に、職業付添人の実費、近親者付添人は1日につき一定の額が認められます。
オ 通院付添費用
症状又は被害者の年齢等により必要性が認められれば、被害者本人の損害として認められます。
カ 入院雑費
入院療養のために必要な費用で、入院1日につき一定の額が認められます。
キ 医師・看護師への謝礼
社会通念上相当なものであれば、損害として認められる場合もあるようです。
ク 通院交通費(転院費・退院費を含む。)
電車、バス等の医療機関までの交通費実費(症状によっては、タクシー代が認められることがあります。) 。
ケ 休業損害
治療期間中欠勤のために給与が減額されたり、あるいは店を休業せざるを得なかったなどのために、得ることができたはずの収入が得られない場合には、その損害を請求できます。
算定方法としては、事故前3か月ないし1年分の収入をもとに1日当たりの単価を算出し、これに休業日数を掛けて算定します。
事業所得者、会社役員、家事従業者など、職種によっては、算定及び立証が難しい場合があります。
コ 慰謝料(傷害分)
傷害による精神的苦痛について、金銭的に評価して慰謝料として請求します。
傷害の慰謝料と後述する後遺障害の慰謝料とは別々に算出します。
②後遺障害が残った場合
後遺障害とは、症状は固定したが障害の残る場合をいいます。上記①に加え、以下の損害が考えられます。
ア 介護料
医師の指示又は後遺障害の程度により、将来にわたり付添いを必要とする場合は、職業付添人については実費額、近親者の付添いについても1日当たり一定の額が被害者本人の損害として認められます。
介護用機器の費用、家屋・自動車改造費用等も、被害者の障害の内容を具体的に検討し、必要性が認められれば、相当額が損害として認められる場合があります。
イ 慰謝料(後遺障害分)
後遺障害の程度により算定します。 重度の後遺障害の場合には、近親者にも別途慰謝料が認められる場合があります。
ウ 逸失利益(後遺障害分)
治療が終わっても、手足切断などのように後遺障害が残ったため、労働能力がある程度以上は戻らない場合には、これが原因で生ずる将来の収入減少額が損害と認められます。
●算定方法
[事故前の年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数]
1. 後遺障害の具体例に応じて、労働能力の喪失率や喪失期間を決める点に難しさがあります。
2. 事故前の年収については、(3)死亡による損害の「逸失利益」を参照してください。)
3. ライプニッツ係数とは、遺失利益を算出する計算式に使用する係数で、将来生ずるであろう利益について、今、一時金の形で請求する場合に、その利益が生ずるであろう時までの中間利息を控除する計算をするため、就労可能年数及び年利率に応じてあらかじめ算出した係数です。
③死亡した場合
逸失利益、慰謝料、葬儀費のほか、死亡するまでの間の治療費(傷害事故の場合と同じ。)等の出費があれば、これらも合わせて損害となります。
ア 死亡するまでの障害による損害
治療費、休業補償費などです((1)の「傷害事故による損害」を参照してください。)。
イ 逸失利益
もし被害者が、事故によって死亡することなく健康で働いたとしたら、当然将来得られたはずの収入から生活費を差し引いた利益のことです。
●算定方法
(事故前の年収-生活費)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
1.年収
死亡者の労働による事故前の収入で、考え方として死亡者の現実の年収を基礎とする場合と、統計による平均的年収を基礎とする場合がありますが、具体的事例に適した算定が必要です。また、給与所得者、自由業等の個人営業、主婦などの家事従事者、無職、未成年者等に応じて、細かい算定上の問題がありますので注意してください。
2.生活費控除
本人の生活費を控除します。 生活費の立証が困難な場合には、被扶養者の数により年収の30%~50%を目安として、実状に応じて控除されます。
3.就労可能年数
原則として67歳まで働くものとし、高年齢者の方が被害者となった場合には、平均余命年数の2分の1とします。
4.中間利息の控除
将来の年収を現時点で受け取るわけですから、この間に生ずる中間利息をライプニッツ方式(中間利息を複利方式で計算)により控除します。 就労可能年数に応じた数値表を利用して計算します。
ウ 退職金
勤務先に退職金規定がある場合、事故死亡時に支給された退職金額と、定年まで勤務していれば得られたであろう退職金額との間に差額があれば、この差額が認められる可能性があります。
エ 死亡慰謝料
精神的損害として、被害者本人の慰謝料と遺族の慰謝料とがあり、被害者本人の慰謝料は相続人によって相続されます。
その額は死亡者の年齢や家族構成などにより異なります。 オ 葬儀関係費用
葬儀費用は、社会通念上相当な範囲で支払われます。最近は定額化の傾向にあるようです。
④物損の場合
自動車など物件の損害については、原則として事故前の状態に回復するのに必要な費用となります。
ア 修理費用
修理が相当な場合、適正な修理費相当額が認められます。全損の場合は、事故時の時価となります。修理が可能な場合は修理代が基準ですが、修理代が時価より高いときの通例は時価が損害額となります。
イ 評価損(格落ち)
修理しても外観や機能に欠陥が残り、又は事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合、損害として認められる場合があります。
評価損の査定について、公正な第三者機関である日本自動車査定協会が発行する「事故減価額査定」が証拠採用された裁判例があります。
ウ 車の買換え費用
全損で車の買換えをするときの諸費用(登録、車庫証明、廃車の法定手数料、自動車取得税等)も損害になります。
エ 代車使用料
車の相当な修理期間、買替期間中に、代わりの車を借りるために必要な費用も損害となります。レンタカー代で請求している例が多く、被害車両と同程度の車種の費用が認められています。
オ 休車損
破損した車が営業用で代車が得られない場合には、相当な買替期間中又は修理期間中の休車損が損害として認められます。
請求できるのは、被害車両を稼働させたら得られたであろう収入から経費を引いた純益の額となります。
カ レッカー代
被害車両を、事故現場から引き上げるときに必要な費用も損害とみなされます。
キ 積荷の損害
被害車両の積荷に損害が生じていれば、その損害も賠償の対象となります。
ク 建物等の損害
事故により建物、機械設備、塀、電柱等を損壊したときは、これらの損害も賠償しなければなりません。 建物、機械設備等を損壊した場合において、それらが営業に使われていたときは、その営業損害も賠償の対象となります。
ケ 着衣、時計等
被害者が事故当時身に着けていた衣類、履物、時計等の損害も賠償の対象となります。
自賠責保険の被害者請求
交通事故により後遺障害が残った場合は、自賠責保険へ被害者請求をしましょう。
被害者は、相手(加害者)の自賠責保険会社に直接保険金を請求できます。加害者は自賠責保険に入っているけど、損害賠償金を支払われないときは、被害者は、直接、相手方自賠責保険会社に保険金を請求できるのです。
自賠責保険への被害者請求は、基本的に弁護士などの専門家の力を借りなくても手続ができるようになっていますので、保険会社から請求書類を取り寄せ、必要事項を記入して、必要書類とともに提出しましょう。
自賠責保険から先に保険金を受け取りますと、そのお金を、自賠責保険ではまかない切れない損害の賠償請求についての弁護士の着手金や裁判費用、当面の介護費用に充てることができます。
被害者請求権は、「事故発生後2年間」で時効になりますが、後遺障害が残った方の請求期限は、「後遺障害の症状が固定した日の翌日から2年以内」となっていますので注意が必要です。
症状固定後に何らかの事情で請求期限の2年以内に被害者請求ができそうにない場合は「時効中断」という手続もありますので、保険会社の窓口に相談してみましょう。
手続きの面倒な方、忙しい方には、当事務所でも自賠責保険請求の代理をいたします。
(当事務所の被害者請求の弁護士費用の目安)
○着手金
:手数料
○通常の場合
:21,000円 自賠責保険から支払われた金額の3%
○異議申立を行った場合
:52,500円 異議申立により増加した金額の10%
仮渡金制度について
自賠責保険には、仮渡金の制度があります。これは、交通事故の被害者が当面の治療費や葬儀費用などの当座の出費に困るときに、損害賠償責任や損害額が未確定の段階で、損害を立証する書類がなくとも、診断書等を提出することによって、自賠責保険から一定額の一時金の支払いが受けられる制度です。
自動車事故は、損害賠償責任や損害額の確定に相当時間がかかりますので、これらの確定を待っていれば被害者の早期救済が図れないことから認められた法律上の制度です。必要書類をそろえて提出すれば、比較的短期間で支払われます。
なお、仮渡金は、後日損害額が確定して損害賠償金が支払われる際に控除されます。支払われた仮渡金が確定した損害額を超えるときは、保険会社は、超過して支払った金額の返還を被害者に求めることができます。
保険会社に対する任意保険の請求
被害者の方が、加害者の任意保険会社との交渉を弁護士に依頼される動機には、せっかくの休日にいつまでも煩わしいことに関わっていなくても済む、気を張って保険会社の担当者と会わなくても済む、早期に示談してしまうと本来受け取れるべき金銭を受け取れていないのではないか、保険会社の担当員にうまく言いくるめられているではないかと心配をしなくて済む、など様々な動機があると思います。
弁護士に依頼するメリットとして一番に考えられることは、弁護士に依頼すれば、現在保険会社から提示されている金額よりも多額の賠償金を受け取れる可能性が高いということです。
保険会社は、通常被害者が交通事故の示談交渉に慣れておらず、知識も無いことから、本来賠償金として当然に被害者が受け取れるはずの金額よりも相当低額の提示をしてくることがほとんどです。一般の被害者の方、ご遺族の方が示談金よりも高い金額を提示したとしても、任意保険会社も会社としての利益のため、保険金はなるべく低額に抑えようとしますから、適当な理由をつけ、その金額は支払われませんと言ってくるだけです。
ところが、専門知識を有し、他士業と異なり、金額の制限なく裁判所の代理権も有する弁護士が交渉することにより、任意保険会社は支払いを拒むことが困難となります。
どうしようかと迷っておられる方は、保険会社の提示する書面をもって、専門家の法律相談を受けてみてください。
当事務所では、事件の内容を詳細にお伺いした上、損害額の算定も行っております(要手数料:3万1500円)。
算定の結果、増額できる可能性がある場合、その知識をもとにご本人が保険会社と交渉されてもよいし、弁護士に交渉を依頼されてもよいのです。