離婚問題【慰謝料・財産分与】

離婚の話し合いをすすめる場合、慰謝料、財産分与、養育費などの「離婚給付」と呼ばれる「お金の問題」は避けては通れない問題です。
条件面について話し合いをスムーズに進め、離婚後に後悔をしないためにも,「お金の問題」については正しい知識を得るようにしてください。

財産分与と慰謝料の違い

財産分与と慰謝料の違いで最も大きなポイントは、「慰謝料は、必ず請求できるとは限らない」ということです。

「慰謝料」とは、離婚原因を作った側(加害者)が、精神的苦痛を受けた側(被害者側)に対し,その与えた苦痛を慰謝するために支払う損害賠償金のことです。
従って、性格の不一致など、離婚の原因が夫婦双方にある場合には、慰謝料を請求することができません。「離婚=慰謝料=妻から夫へ請求できるもの」という誤解をされている方も多いので注意が必要です。

一方、「財産分与」とは、離婚に際して、結婚後夫婦で築いてきた共有財産を清算することをいいます。従って、離婚原因を作った側であっても対象となる夫婦共有財産があれば財産分与の請求ができます。
実際の離婚では、双方が相手に離婚原因があると主張し,互いに慰謝料請求をし合うケースが多いようです。

1.慰謝料について

離婚の際の慰謝料について

相手方の有責・不法な行為によって、やむを得ず離婚に至った場合、これによって被った精神的苦痛について慰謝料の請求が認められます。
離婚の原因となった個別の有責行為(暴力や不貞行為など)から生じる精神的苦痛に対する慰謝料と、離婚すること(配偶者としての地位を失うこと)自体についての慰謝料とに一応分類されるものの、裁判においては多くの場合一括して処理されています。 もっとも、離婚により精神的苦痛が生じたとしても、必ず相手から慰謝料が取れるわけではありません。 慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償の請求ですので、相手に「不法行為」と認められる事情(暴力・不貞行為・生活費を渡さない、一方的に離婚を言い渡された等)が存在することが必要です。
従って、お互いに精神的苦痛があったとしても、性格の不一致による離婚など、どちらが悪いともいい難い場合には慰謝料は認められないことになるのです。

慰謝料請求の流れと請求額の基準

慰謝料の額については、一般に①有責性、②婚姻期間、③相手方の資力の3要素が大きな算定要因と言われていますが、離婚については具体的事情が千差万別であるため、一義的に決まるものではありません。
協議離婚の場合は、慰謝料の支払いの有無、金額について話し合いで決めることになります。 慰謝料については明確な算定基準がないため、離婚の原因を作った相手の責任、自分が受けた精神的ショックなどを考慮して、相手方が支払える額を請求します。
話し合いがまとまらない場合は、相手方の住居地を管轄する家庭裁判所に離婚調停を申立て、その調停手続の中で慰謝料の請求をして話し合います。家庭裁判所でも様々な要因を考慮して算定しますので、具体的な慰謝料の額については個々の事情によって大きな開きが出てきます。

一般的な傾向としては、
1. 有責性が高いほど慰謝料は多い
2. 精神的・肉体的苦痛が大きいほど多い
3. 婚姻期間が長いほど多い
4. 有責配偶者に資力があるほど多い
5. 無責配偶者の資力が無いほど多い
6. 財産分与の額が少ないほど多い
7. 未成年の子がいる方がいない場合より多い
といった傾向にあるようです。

感情にまかせて法外な請求をしても相手が支払えなければ意味がありませんので、確実に受け取れる金額であるかどうかも十分考慮したうえで、できるだけ一括で受け取れるように交渉しましょう。

慰謝料請求に役立つ証拠

慰謝料の請求をしたい場合に相手が認めなければ、最終的には裁判で解決することになります。その際には慰謝料の根拠を、慰謝料を請求する側が立証しなければなりません。従って、将来慰謝料を請求したいと考えている場合には証拠を収集しておくことが重要です。

慰謝料請求に役立つ証拠としては、
①不倫の証拠(手紙、メール、写真、領収書、カードの明細、探偵の調査報告書等)
②暴力の証拠(傷害を受けた箇所の写真、診断書等)
③精神的ショックに関する証拠(日記、友人への手紙等)

などが挙げられます。 もしこのような証拠があれば、仮に裁判に至らなくとも、それ以前の交渉を有利に進めることができます。

不貞行為の相手方に対する慰謝料の請求

不貞行為の相手方に対しては、原則として不法行為として、慰謝料の請求ができるとされています。 配偶者と相手方の共同不法行為ですので、配偶者と相手方が連帯責任となり、どちらか一方から支払いを受ければ、その分が慰謝料の総額から差し引かれることになります。
慰謝料の総額については、夫婦や相手方の事情、不貞行為の態様によって異なりますので一概に述べることはできません。統計では、100万円から300万円の範囲で解決している場合が多いようです。
ただし、不貞関係があったときに夫婦関係が事実上破綻しており、既に別居していたような場合には、原則として慰謝料請求はできません。このような場合は、法的保護に値する利益があるとは言えないからです。 この慰謝料請求権は、夫婦の一方が他方と第三者の不貞行為を知ったときから時効が進行し、知ってから3年以上経過すると3年以上前に生じた損害は時効により消滅してしまいますので、注意が必要です。
また、慰謝料を裁判で解決する場合には慰謝料の根拠を、慰謝料を請求する側が立証しなければならないことは、配偶者に対する慰謝料請求の場合と同様です。

2.財産分与について

財産分与

「財産分与」とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を清算して分け合うことです。
民法では夫婦別産制をとっています(民法762条1項)から、夫婦の一方が婚姻前から有していた財産(例:婚姻時に妻が有していた預貯金)、婚姻中に自己の名で得た財産(例:相続で取得した不動産)は、各自が単独で引き取ることになります。
共有財産(結婚後に購入した家財道具など)は、離婚する際、どちらが何を引き取るか(又は廃棄してしまうのか)を決めることになります。また、共有名義で不動産を購入していた場合、通常は、一方が他方の持分を取得する代わりに他の財産の分け方を考慮したり、売却して代金を分けたりすることになります。
単独名義の財産についても、結婚後に貯めた預貯金、結婚後に購入した不動産、自動車などが実質的には夫婦の共有である場合には、離婚に際して清算しなければなりません。日本ではまだまだ夫が外で働いて、妻は専業主婦として家庭を守るという形態の夫婦も多いようです。この場合、財産の名義が夫の単独名義となっていることが多くありますが、実質的には夫婦が協力して作り上げた財産ですから、名義が夫の単独名義であっても、夫婦の共有財産として清算の対象とされることになります。

財産の分け方

具体的な財産の分け方、比率については法律に定められている訳ではありません。夫婦が話し合いにより、双方が納得できる分け方を模索していくことになります。 現物で分け合うこともできますし、現金化してから分け合っても構いません。 清算の割合については、通常は、夫婦の財産を作り上げた各自の寄与度に応じて決めることになりますが、夫婦が共働きの場合、50%とする場合が多いようです。
※最近は、妻が専業主婦の場合であっても50%とされることが多いようです。

(具体的な注意点)
現物で分ける場合、不動産、自動車など、所有者名義の変更が必要になる財産を分ける場合は、名義を確認し、名義変更に必要な書類を確実に受け取っておきましょう。
現金で分ける場合は、できるだけ一括払いにしましょう。分割払いの場合、離婚後は新たな生活が始まる訳ですが、支払う側の経済力、支払意思に変化が生じ、支払いが滞る場合が多いからです。分割払いにせざるを得ない場合、初回の支払額を多くし、期間もなるべく短く設定しておくようにしましょう。
協議離婚の場合、財産分与の合意ができたとしても、そのままでは記録に残りませんので、後に合意内容について紛争が生じる場合があります。従って、協議離婚の場合は、合意内容を必ず双方が署名捺印した離婚協議書又は公正証書などの書面にしておく必要があります。
分割払いを認める合意をする場合には、万一支払われなくなった場合に備えて、可能な限り、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておきましょう。仮に相手が支払わなくなった場合に、裁判をせずに相手の財産(預貯金や給料など)を差し押さえることができます。
自分の合意内容に不安がある場合は、結論を急ぐことはありませんので、一度お近くの専門家に相談してみることをお勧めします。

財産分与の請求の方法

民法では、「協議上の離婚をした者の一方は相手方に対して財産の分与を請求することができる」(768条1項)とされています。
「離婚をした」と規定されていますが、離婚を(これから)する際に相手に財産分与の請求をして、離婚届の提出と引き換えに、金銭の受領や不動産の移転登記を済ませておきましょう。離婚届が提出され、離婚が成立してしまうと、提出前にした財産分与の約束が守ってもらえず、トラブルになることが多いからです。
財産分与の内容は当事者の話し合いにより決めるのが原則ですが、話し合いがまとまらない場合は相手方の住居地を管轄する家庭裁判所に離婚調停を申立て、その調停手続の中で財産分与の請求をして話し合うことになります。 既に離婚が成立してしまっている場合であっても調停や審判の申立をすることができますが、離婚成立後、2年を経過しますと審判で財産分与の決定をすることができなくなりますので、上記2年の期間については十分に注意しましょう。

※768条2項:前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。

相手方が財産を隠そうとするとき

離婚の際には慰謝料や財産分与の話し合いとなりますが、支払をする側、分与をする側が、財産を隠そうとすることがあります。
具体的には、自分名義の預金を相手に知られていない別の金融機関に移したり、現金化して隠したり、不動産を第三者に売却して代金を隠したり、形式的に名義を移転してしまうなどの行為が考えられます。
相手方の財産の内容(額)及び存在(場所)がわからなくなりますと、交渉は不利になり、仮に交渉の結果自分に有利な約束が形式的には交わされたとしても、守られなかった場合に約束を現実化することは極めて困難な作業となります。
従って、離婚の相手方が上記のような財産隠しを行う可能性がある場合には、事前に準備が必要です。

住宅ローンが残っている家の財産分与

夫名義の家を妻名義にし、妻がそのままそれまでの家に住み続けるということで、財産分与の話がまとまる場合があります。
住宅ローンが完済されていれば問題はありませんが、住宅ローン及び抵当権の登記が残っている場合、ローンを完済して抵当権の登記を抹消しなければなりません。
抵当権の登記を抹消せずに名義だけ妻名義に変更することも可能ですが、抵当権が残っていますので、妻が夫の住宅ローンのために家を担保として差し入れているのと同じことになります。
通常、離婚の際には、夫が住宅ローンを継続して支払っていくという内容の話し合いが持たれるのですが、諸事情により夫がローンの支払をしなくなると、抵当権者が家を競売にかけます。競落されますと、妻は家の所有権を失い、出て行かなければならなくなります。従って、これを防ぐためには、結局妻が住宅ローンの支払を続けていかなければならなくなります。
抵当権を抹消せずに名義だけを変える場合は、上記のようなリスクがあることを前提に、夫の将来の支払能力、約束を守ることが期待できるか、等を十分に検討しておく必要があります。

住宅ローンの残債務より家の時価の方が高い場合(余剰がある場合)、家の価値は、時価から住宅ローンの残債務を引いたものとなります。

財産分与の方法としては、
①家の価値の一定割合を、住宅ローンを支払いその家に住み続ける夫から出て行く妻へ金銭により支払う方法、②家を売却して住宅ローンを完済し、余剰を分ける方法、③住宅ローン債権者の承諾を得て債務者変更の手続をとり、妻が住み続ける方法などが考えられます。