労働問題【解雇】

解雇

法律上は、解雇とは使用者による労働契約の解約です。つまり、会社が労働者の意思に関係なく(労働者との合意に基づかずに)退職させることは、解雇にあたるといえるでしょう。
また使用者に解雇の自由は認められておらず、労働基準法18条の2には、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。これは、「使用者は解雇を自由にできず、法律上正当な理由がなく解雇しても、その解雇には効力が無い」 という意味なのです。
なおこの規律は、解雇の種類に関係なく全ての解雇(懲戒解雇、諭旨解雇、整理解雇)に適用されます。ので、正当な理由がない解雇については不当解雇として無効となるでしょう。

解雇の有効・無効

典型的な解雇理由ごとに、不当解雇にあたるかの一般的な検討のポイントを説明します。 (なお、以下は、不当解雇検討の一般論であり、具体的な事案における解雇の不当性を保証するものではありません。具体的な事案については、個別に弁護士にご相談下さい。)

1.労働者の労務提供不能・労働者の能力欠如による解雇
業務に従事出来ない期間が短い、あるいはやむを得ない事情により労務提供ができない場合などに会社がすぐに従業員を解雇すれば、「合理的な理由がない」として無効とされ不当解雇となります。
勤務成績についても、他の従業員と比較して本当に著しく劣るといえるか、解雇通知前の会社による必要な指導・教育の有無、解雇以前の段階で公平な人事考課がなされたか等の検討が必要です。
一般的に言って、勤務成績不良による解雇については、相当程度勤務能力が劣っていることが明白でない限り、法律上解雇が適法であるとは判断されにくく、不当解雇とされる場合が多いでしょう。

2.従業員の規律違反行為による解雇
遅刻が多い、勤務態度が悪い、会社のお金を使い込んだ等、就業規則への違反行為がある場合です。就業規則には通常、このような行為をすれば普通解雇ないし懲戒解雇を行うという規定があります。
懲戒解雇は単なる解雇とは異なり「懲罰としての解雇」を意味することから、通常の解雇と比較して、従業員側により大きな落ち度が存在している必要があり、不当解雇として無効となりやすい傾向があります。
また、通常解雇であっても、就業規則違反行為の内容が軽微であれば、解雇は不当解雇として無効となり得ます。

3.経営上の理由による解雇
会社の業績不振を理由とする、いわゆるリストラによる解雇です。
「会社が業績不振なのだから辞めさせられてもしょうがない」と考えがちですが、リストラによる解雇についても自由にできるというわけではありません。

1) 本当に業績不振で人員整理が必要なのか
2) 整理解雇を避けるための会社の十分な努力の有無
3) 解雇の対象としてあなたが選ばれることの合理性
4) 一定の手続をしっかりと踏まえてから解雇をしているのか

上記の整理解雇の4要件を検討し、当該解雇が不当解雇か否かが判断されます。

4.解雇予告手当を受け取っているか
労働基準法上、会社が解雇を行うには、30日前の解雇予告、もしくは平均賃金の30日分の解雇予告手当の支給が必要となります。会社から突然、「明日からこなくていい」と言われ、解雇予告手当の支給も無いとすれば、その会社の行為は違法です。そのような不当な解雇は、原則として、即時の解雇として無効と考えられます。
もっとも、解雇予告手当を受けるとる際にも注意が必要です。労働者において会社からの解雇が不当解雇であり無効であると考えているならば、解雇通知・予告に対し何の異議も唱えずに解雇予告手当を受け取る行為は、労働者自身が解雇の事実を受け入れている=納得しているという評価をされかねません。

解雇を不当解雇であると争いつつ解雇予告手当を受け取るのであれば、「解雇は無効と考えるが、解雇されている間の給与相当分として解雇予告手当を受け取る」等の内容の書面を会社に差し入れるなど、労働者自身が解雇に納得していない事実を会社に対して明らかにしておく必要があるでしょう。

不当解雇に関する紛争の解決法

実際に解雇されたらどうすべきか

【解雇理由の把握】
第一に、解雇の理由を正確に把握しておかなくてはなりません。
通常の会社であれば、解雇と同時に解雇通知書という文書があなたに手渡されるはずですので、これで解雇理由を確認してください。
この文書を会社が交付しない場合には、会社に対して解雇通知書ないし解雇の理由を証明する書面を渡すよう会社に告げてください。労働基準法22条2項には、「労働者が解雇の予告をされた日から退職する日までの間において当該解雇の理由について証明書を請求した場合には使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない」と規定されており、あなたからの請求に対して会社が解雇通知書ないし理由書を交付しないとすれば、そのような会社の行為は労働基準法違反となります。

【解雇の有効性を検討】
解雇理由が記載されている書面を手に入れた後は、そこに書かれている内容が事実に合致しているか、また事実に合致するとしても法律上解雇が可能かを検討してください。
会社が主張しているような解雇理由事実自体がなければ、あなたに解雇される理由など存在せず、当然解雇は不当解雇として無効です。
また、解雇理由事実についてはその通りであっても、それが本当に解雇可能な事実なのかについても検討すべきです。この点については、条文・判例等の知識も必要となるところですので、弁護士等労働法の知識を有している者の助力を得るのが得策でしょう。

もっとも、会社としても労働者に対して解雇を行うにはそれなりの言い分があり、弁護士名義で不当解雇撤回の通知書がきたというだけでは、すぐにこれを撤回しないのが通常です。
そのような場合には、裁判所等の第三者機関を利用し強制的に会社の解雇が不当かつ無効であることを認めさせる必要があるでしょう。

不当解雇問題の解決制度

会社側が任意で不当解雇の撤回をしない場合には、第三者機関を利用して会社に解雇の不当性を認めさせなくてはなりません。
その際に利用できる各制度の概要とメリットとデメリットは次のとおりです。

(1)紛争調整委員会によるあっせん
紛争調整委員会とは、各都道府県労働委員会内におかれている組織です。この紛争調整委員会にあっせんを申し込むと、労働事件に精通した学識経験者3名が選任され、労働者と会社との間の不当解雇に関する紛争について調停の場を設けてくれます。
あっせん委員は、あなたと会社側の意見を双方聞き、事件の実情に即した解決案を提示してくれます。

○メリット
・弁護士を立てずに自分自身で手続を利用しやすく、その場合弁護士費用の経済的負担がない
・(和解できれば)解決までの期間が短かくてすむ

○デメリット
・会社の姿勢が強硬な場合、調停を開き不当解雇問題について協議の場につくことすら出来ずに手続が終了してしまう場合もあり得る
・調整委員がいくら会社を説得してくれても、会社の意思が頑なであると強制的な和解はできない

(2)労働審判手続
労働審判手続とは、裁判官を含む労働関係の専門家3名により、原則3回の期日において調停による解決を試みつつ、調停が不成立の場合には事案に即した審判を下すことにより労働問題の適切な解決を目的とする制度です。
労働審判の制度は、裁判所による労働問題の紛争長期化傾向に鑑み、平成18年4月1日から施行された新しい労働問題の紛争解決制度です。原則として3回の期日で終わることから、審判の申立後3ヶ月程度で解決に至るという点が特色といえます。

○メリット
・原則として3回の期日で結論がでるため、紛争解決に至るまでの期間が短くて済む
・裁判官が関与し、審判という判決に類似する労働委員会による判断が下される

○デメリット
・労働者に有利な審判がでても、会社が異議を出せば、通常訴訟の場で争うことになる
・短期間の内に法的に意味のある主張を十分に行い労働審判委員会に解雇の不当性を主張をするには、弁護士の助力が必要となることが多く、そのばあい弁護士費用の負担がかかる

(3)地位保全の仮処分
裁判所を利用する手続の一種ですが、通常の民事訴訟とは異なり、権利救済の緊急性が高い場合に利用される手続です。
不当解雇の場合、労働者は通常、給料という生活の糧を失うことから、通常の民事訴訟の前に緊急の申立として、とりあえず仮に解雇が不当であり無効であることを主張し、給与を支払うように会社に訴える手続です。緊急性の存在を前提として手続が進むので、審理は迅速に行われ、比較的早い時期に解雇が不当であるか否かの一応の結論がでる点が特色といえます。

○メリット
・早期の手続により労働者の給与が確保され、労働者が生活の安定を得ることが出来る
・手続内で和解が成立する場合も多く、その場合民事訴訟を提起せずに問題が解決する

○デメリット
・基本的には、再度通常の民事訴訟を提起しなければならない
・仮処分手続は早期の権利救済を目的とするが、裁判所の運用等から必ずしも早期の権利回復がなされていない現実もある

(4)通常民事訴訟
通常の民事裁判手続により解雇の不当性と当該解雇の無効を会社に対して主張するという方法です。
裁判官の主導の下、労使双方が十分な主張と立証を行うことにより事実関係を明らかにし、解雇が有効か無効か判断します。

○メリット
・裁判所による手続であり、判決という強制的な判断により事実関係や解雇の有効無効を明確にできる
・どんな非協力的な会社でも訴訟に対応せざるをえないため、強制的に会社を紛争解決の場に引き出せる

○デメリット
・時間が膨大にかかることが多い
・通常は弁護士を使って訴訟提起を行うため、弁護士費用がかかる(本人訴訟を除く)

不当解雇問題の解決手続

上記のとおり、不当解雇問題の解決手段としては様々なものがあり、ケースバイケースで判断をせざるを得ないのが現状です。 ただし、労働審判制度については、既存の不当解雇問題解決制度の難点を補う形で制度化されたものであり、比較的迅速に適切な解決が見込まれるという点で、利用価値は高いといえるでしょう。
もっとも、デメリットも存在するという点については既述のとおりであり、やはり最終的な決定は弁護士等の専門家と協議の上決定すべきです。

また、不当解雇の事件は、一般的に、解雇の不当性を主張するために多くの事実主張・証拠収集の必要があります。そのため、弁護士に一度事件を依頼すれば、あとは弁護士任せで何もする必要がないというものではなく、労働者自身、弁護士と一緒に主張を考え証拠を集めていく作業が必要になります。
このため、弁護士の人柄や対応等をしっかりと見極め、自分にあった弁護士を選択していくべきです。