1 はじめに
現在、投資家の中にも、単独での創業よりも共同創業を評価する向きもあり、複数名が取締役となって事業をスタートするケースがあります。ただ、会社を経営していく中で、方向性の違いなどが明確になり、一部の取締役が他方の取締役を解任したいという相談に来られるケースがあります。
取締役の解任は、任期途中であっても株主総会決議により可能ですが、解任された取締役は、「解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。」とされております。ここで、「解任によって生じた損害」とは、残りの役員任期分の役員報酬相当額とされているため、残任期が長いほど、また、役員報酬が高いほど、解任する役員に支払うべき損害額が大きくなりますので、「解任について正当な理由がある」か否かは大きな問題となります。
この「解任について正当な理由がある」か否かが争点となった事案が、東京地判令和2年9月16日ジュリスト1559号2頁です。
2 事案の概要
平成28年7月18日、被告会社の専務取締役である原告は、セブ島でのゴルフコンペ後の夕食会が終わった後、被告会社の代表取締役会長とカジノでバカラをしていたが、会長が原告にカードのめくり方を注意したことに端を発し、両名は殴り合いのけんかをするに至り、 原告は、会長から顔面を殴打される暴行を受けたことにより、全治10日間を要する顔面打撲傷のほか、約1か月間の経過観察を要する右眼球打撲傷及び網膜振とうの傷害を負いました。
その後、平成28年8月4日の株主総会で原告は取締役から解任されましたが、本件解任決議に係る議案の提案理由は、「原告は専務取締役として、本来会長を補佐する責任があるにも拘わらずその責任を全うせず会長に対して反抗的態度をあらわにし、指揮監督に服せず善管注意義務及び忠実義務に違反しております。」というものでした。
3 判旨
原告は、本件カジノにおいて上司である被告代表者から本件暴行を受け、軽傷とはいえない本件傷害を負ったにもかかわらず、その翌々日に出社した際には被告代表者から本件カジノにおける暴行について一方的に謝罪を求められたというのであって、これに対して、原告が、被告代表者に反発して同人に反ばくしたり口を利かなくなったりして、一時的に職務を遂行する意欲が減退したとしてもやむを得ないというべきである。
にもかかわらず、原告の上司である被告代表者及び丙川は、被告代表者と原告との不仲を解消するための話合いや事情聴取の機会を設けることをしないばかりか、原告に対して弁明の機会を与えることもないまま、本件暴行からわずか2週間余り後に、一方的に、工事現場勤務を命ずる旨の事実上の降格辞令を原告に交付した上、被告代表者において本件解任決議を行っているのであって、本件解任は、本件カジノにおけるけんかの被告代表者による意趣返しと推認せざるを得ず、本件解任について「正当な理由」(会社法339条2項)があるとは到底認められない。
4 結語
一部の取締役が他方の取締役の解任を求める場合、横領等の明確な解任事由はないものの、方向性の不一致や業務態度に対する不服など、感情的な理由によるケースも多いですが、そのような理由では「正当な理由」とは認められないことを示したものとなります。
設立時取締役の場合、株式を持っていることも多く、また、これまで獲得した顧客の引き抜き、従業員の引き抜きなど、色々な問題がはらむことがあるため、そのあたりも含めて話し合いにより解決することが望ましいと言えます。