お知らせ

2023.06.14

従業員を休業させた場合の給与支給

1 はじめに

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、事業を休業したり、シフトに入ってもらう人を減らすなどの対応をした企業も多いかと思います。そういった場合に、会社は従業員に給与などの支払をする必要があるのでしょうか。

この点について、①新型コロナウイルス感染症拡大を原因としてホテルが休業となったことに伴い、客室清掃員も休業した事案が東京地判令和3年11月29日労判1263号5頁です。

また、休業の原因は新型コロナウイルス感染症拡大とは直接の関係はありませんが、②親会社からの資金提供を打ち切られたことを理由として従業員が休業した事案が東京地判令和3年12月23日労判1270号48頁です。

 

2 前提知識

会社の指示による休業と給与の支払については、民法536条2項は「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない」と規定しております。

また、労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」とされております。

いずれも、「責めに帰すべき事由」となっていますが、裁判例上、民法と労働基準法では解釈が異なっていますので、その点も含めた検討が必要となります。

 

2 ①の判旨

休業手当の支払義務につき,労基法26条にいう「責めに帰すべき事由」とは,故意又は過失よりは広く,使用者側に起因する経営・管理上の障害を含むが,不可抗力は含まないものと解する(最判昭和62年7月17日民集41巻5号1283頁)。

被告においては,新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛などにより,令和2年2月頃以降売上の減少という影響を受けはじめ,同年3月の売上は前年同月比約36%減,同年4月は約68%減となり,その後も売上は停滞した。被告は,このような売上減少に対応するため,同年3月29日以降,従業員全体の出勤時間を抑制することとし,原告には本件休業を命じたものである。このような売上減少の状況において人件費削減の対策を講じたことの合理性は認められるところであり,これによる雇用維持や事業存続への効果が実際に生じたであろうことを否定するものではない。しかしながら,被告は,事業を停止していたものではなく,毎月変動する売上の状況やその予測を踏まえつつ,人件費すなわち従業員の勤務日数や勤務時間数を調整していたのであるから,これはまさに使用者がその裁量をもった判断により従業員に休業を行わせていたものにほかならない。そうだとすれば,本件休業が不可抗力によるものであったとはいえず,労働者の生活保障として賃金の6割の支払を確保したという労基法26条の趣旨も踏まえると,原告の本件休業は,被告側に起因する経営・管理上の障害によるものと評価すべきである。


3 ②の判旨

原告は,事前の予告なしに事業を停止する旨を告げられ,賃金の支払を停止されたこと,平成31年2月分及び同年3月分の賃金についても支払を受けていないことが認められ,加えて,原告が62歳を超える高齢であり,就職先を見つけることが容易ではないと考えられることも考慮すると,原告が休業を命じられることにより被る不利益は小さくないということができる。

被告は,…全従業員に対し,事業を清算するつもりであり,給与の支払が困難である旨を告げたと主張するが,本件全証拠によっても,被告が,従業員に対して,事業の停止に至る経緯,財務状況,休業期間の見通しについて具体的な説明を行ったものとは認められない。また,被告は原告に対して事業の売却交渉の進捗状況について報告していた旨主張するが,確かに,被告から原告に対し,海外のベンチャーキャピタルとの連絡を依頼していたことが認められるものの,原告は,連絡の依頼を受けていたにすぎないことからすれば,事業の停止に至る経緯,財務状況等について理解していたとまでは認められない。

以上の事情を総合的に考慮すれば,被告が事業を停止したことが合理的であるとは認められず,被告が原告に対して休業を命じたことについて,民法536条2項所定の債権者の帰責事由が認められる。