1 はじめに
労働基準法上、「労働時間」に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものとされております。
実際上は、昼休み、研修、連絡待ち時間などが労働時間に該当するか否かが争われます。
2 アルデバラン事件令和3年2月18日労働判例1270号32頁
「看護師が呼出しを受ける理由としては,例えば,発熱,ベッドからの転落,認知症患者の徘徊,呼吸の異変等があり,実際に駆け付けることまではしない場合にも,救急車の手配,当面の対応の指示等をするときもあることが認められる。そして,緊急看護対応業務のための待機とは,前記緊急看護対応業務が必要となる場合に備えて,従業員が,被告からの指示に基づき,シフトに応じて緊急時呼出用の携帯電話機を常時携帯している状況をいう。このような業務の内容等を踏まえると,…携帯電話機を所持して緊急看護対応業務のための待機中の従業員は,雇用契約に基づく義務として,呼出しの電話があれば,少なくとも,その着信に遅滞なく気付いて応対し,緊急対応の要否及び内容を判断した上で,発信者に対して当面の対応を指示することが要求され,必要があれば更に看護等の業務に就くことも求められていたものと認められる…のであって,呼出しの電話に対し,直ちに相当の対応をすることを義務付けられていたと評価するのが相当である。」
以上のことを踏まえると「緊急看護対応業務に従事するための待機時間中,待機場所を明示に指定されていたとは認められず,外出自体は許容されていたこと…を考慮しても,上記待機時間は,全体として労働からの解放が保障されていたとはいえず,雇用契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価することができる。」
3 ルーチェ事件令和2年9月17日労働判例1262号73頁
(1)練習会の労働時間該当性
被告会社がアシスタントである従業員に対してスタイリストに昇格しないことによる不利益を課していたなどの事情は証拠上見当たらないのであって,仮にスタイリストに昇格するための経験を積む機会が練習会のほかにないとしても,このことから直ちにアシスタントである従業員が練習会への参加を余儀なくされていたということはできない。加えて,…練習会に参加する従業員は,練習のためのカットモデルとなる者を各自で調達し,カットモデルを調達できないこともあったこと,従業員は練習会でカラー剤等の費用相当額をカットモデルとなった者から徴収して被告会社に支払っていたが,カットモデルとなった者から個人的な報酬を受け取ることができたことが認められる。これらのことに照らすと,練習会は従業員の自主的な自己研さんの場という側面が強いものであったというべきである。
このような練習会の性格に鑑みると,被告が練習会における練習の開始や終了に関する指示等をしていたとしても,店舗の施設管理上の指示等であった可能性を否定することができないし,原告が被告から施術について注意等を受けた際に練習不足であるとの指摘を受けたことを契機として練習会に参加したとしても,これをもって練習会への参加を余儀なくされたとはいえない。
以上に述べたところによれば,原告が練習会に参加し,自らの練習や後輩の指導をしたことがあったとしても,被告会社の指揮命令下に置かれていたと評価することはできないのであって,原告が練習会に参加した時間が労基法上の労働時間に該当するとはいえない。
(2)着付けの講習会の労働時間該当性
原告は被告会社の外部で実施された着付けの講習会に参加したことが認められるが,被告会社が原告に対して同講習会に参加するよう命じたと認めるに足りる証拠はない。
したがって,着付けの講習会に参加した時間は,被告会社の指揮命令下に置かれていたと評価することはできず,労基法上の労働時間に該当するとはいえない。