1 はじめに
従業員を雇用すると、会社側にも社会保険の負担が生じたり、労働時間を管理して残業代を支払うなどの手続をする必要が出てきます。
そのため、雇用ではなく業務委託としてスタッフを雇いたいという相談は多く寄せられます。
ただし、契約が雇用か業務委託かは、契約書の文言などによって決められるわけではなく、実態を見て判断されます。
業務委託として雇ったスタッフが、裁判で雇用と判断されれば、社会保険の負担、源泉所得税の負担、超過勤務があれば残業代の負担などが事後的にのしかかってきます。
劇団のスタッフが雇用に該当するか業務委託に該当するかについて争われた事件を紹介します。これは、劇団スタッフという特殊性ではなく、一般的な企業の判断でも重要と考えて紹介させていただきます。
2 エアースタジオ事件東京高判令和2年9月3日労働判例1236号35頁
(1)まず、雇用されて労働者に該当するか否かは、「契約の名称や形式にかかわらず,一方当事者が他方当事者の指揮命令の下に労務を遂行し,労務の提供に対して賃金を支払われる関係にあったか否かにより判断するのが相当と解される。」、「控訴人と被控訴人が労働者と使用者の関係にあったか否かは,・・・控訴人が,劇団における各業務について,諾否の自由を有していたか,その業務を行うに際し時間的,場所的な拘束があったか,労務を提供したことに対する対価が支払われていたかなどの諸点から個別具体的に検討すべきである。」との一般論を示しています。
その上で、以下のとおり個別具体的な業務について、判断していきました。
(2)まず、大道具,小道具及び音響照明等の裏方業務について、「本件劇団は,年末には,翌年の公演の年間スケジュールを組み,2つの劇場を利用して年間約90本の公演を行っていたこと,・・・本件劇団の劇団員らは,各裏方作業について「課」又は「部」なるものに所属して,多数の公演に滞りが生じないよう各担当「課(部)」の業務を行っていたこと,・・・22時頃から翌日15時頃までの間,可能な限りセットの入替えに参加することとされ,各劇団員らが参加可能な時間帯をスマートフォンのアプリケーションを利用して共有し,控訴人も相当な回数のセットの入替えに参加していたこと,(業務を)割り当てられた劇団員らは,割当日に都合がつかない場合には交代できる者を確保し,割り当てられた公演の稽古と本番それぞれに音響照明の担当者として参加していたこと」などを考慮し、「業務について,担当しないことを選択する諾否の自由はなく,業務を行うに際しては,時間的,場所的な拘束があったものというべきである。」と判断しました。(3)次に公演への出演や稽古について、「本件劇団の公演への出演を断ることはできるし,断ったことによる不利益が生じるといった事情は窺われない・・・。しかしながら,・・・劇団員らは公演への出演を希望して劇団員となっているのであり,これを断ることは通常考え難く,仮に断ることがあったとしても,それは被控訴人の他の業務へ従事するためであって,・・・劇団員らは,本件劇団及び被控訴人から受けた仕事は最優先で遂行することとされ,被控訴人の指示には事実上従わざるを得なかったのであるから,諾否の自由があったとはいえない。また,劇団員らは,劇団以外の他の劇団の公演に出演することなども可能とはされていたものの,少なくとも控訴人については,裏方業務に追われ(小道具のほか,大道具,衣装,制作等のうち何らかの課に所属することとされていた。)他の劇団の公演に出演することはもちろん,入団当初を除きアルバイトすらできない状況にあり,しかも外部の仕事を受ける場合は必ず副座長に相談することとされていたものである。」として、実態としての許否の自由や兼業の自由が認められていないことを重視し、労働者と認定しました。