1 はじめに
会社の従業員が第三者に対して損害を与えた場合、会社もその損害を賠償する義務を負います(民法715条に規定されており、「使用者責任」と言われます。)。
ただ、会社としては、従業員のミスにより第三者に損害を与えた以上、会社が負担した金額について当該従業員に請求(「求償」といいます。)したいと考えることもあります。
このような請求が認められるのかについては、これまでも争われており、結論を先取りすれば、過去の裁判例では、会社が負担した金額の25~30%程度しか従業員への求償を認めませんでした。
2 最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁
従業員が居眠り運転によりハンドル操作を誤ったことによる事故を起こした事案について、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」としたうえで、①会社は運送業であるにもかかわらず自損事故への車両保険の加入を取りやめていたこと、②日常の勤務状況が過酷とはいえないことなどを踏まえ、会社に発生した損害(自社車両修理費用等)の30%についてのみ求償を認めました。
3 神戸地判平成26年9月19日
上記2の最判の規範を引用したうえで、①本件事故が本件車両を公道に駐車させる際にエンジンを切らず、シフトレバーをドライブに入れたまま、サイドブレーキも十分に引かなかったという車両を運転する者として基本的な注意義務を怠ったことにより発生したものである一方、②エンジンを切らなかったことについては、車両の冷蔵機能を停止させないようにするためであり他の従業員も同様の方法を採っており、会社がエンジンを切るよう指導を徹底していた形跡はないこと、②会社が車止めを備え置いていないこと、③会社がいわゆる上乗せ労災保険に加入していれば,損害の発生を防止することができたこと④従業員が週3回程度のパートタイム従業員であって給与は年収にして約153万円であったことなどの事情も考慮し、会社に発生した損害の4分の1を限度として求償を認めた。
4 まとめ
いずれも会社が事故について積極的に関与しているわけではありませんが、会社がなすべき種々の注意義務違反を指摘されて、半分にも満たない金額しか請求できないとされております。